- 人材派遣の基本
労働者派遣契約とは?業務委託契約との違いや記載事項、注意点を紹介
労働者派遣契約とは、派遣会社と派遣先企業で取り交わされる、どのような条件で派遣社員を働かせるかを規定する契約です。
労働者派遣契約を締結せずに派遣社員を受け入れるなど、正しい手続きを踏まなかった場合、トラブルへの発展や法律違反によるペナルティを科されるリスクが出てきます。
本記事では、労働者派遣契約の概要や業務委託契約との違い、契約の流れ、注意点を解説します。
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労働者派遣契約とは
労働者派遣契約とは、派遣会社と雇用関係にある派遣社員を、派遣先企業に派遣して労働に従事させるために必要な契約です。派遣先企業が派遣社員を受け入れる際、派遣会社と派遣先企業の間で取り交わされます。
労働者派遣契約は、大きく分けると基本契約と個別契約の2種類です。基本契約で労働者派遣契約の大枠を決め、個別契約で派遣時の詳細を決めます。
基本契約
基本契約とは、契約期間中の取り引きにおいて、共通で適用される項目を規定する契約です。企業間トラブルを避けることを目的としています。
具体的には、以下のような項目の取り決めを行います。
記載事項 | 概要 |
派遣料金 | 派遣先企業から派遣会社に支払う料金 |
相互の義務 | 期間制限や残業制限、二重派遣の禁止といった法令や守秘義務について、両者の認識を一致させるための項目 |
損害賠償 | 派遣社員の行為により、被害を被った際の損害賠償の条件と責任の範囲 |
禁止事項 | 反社会的勢力の排除条項、禁止事項に基づく解除の方法や損害賠償義務について |
知的所有権の帰属 | 書籍や記事の執筆・制作、プログラムの開発など、知的財産権や著作権が生じる業務を任せる場合に知的所有権がどこに帰属するのか |
契約解除事項 | 契約更新をしない場合のルール |
労働者派遣法では、基本契約の締結および契約書の保管義務はありません。
しかし、トラブル防止の観点から基本契約を締結し、契約書は保管しておくのが一般的です。
個別契約
個別契約とは、各派遣社員を派遣する際に、個別の条件を規定した契約のことです。派遣社員を守るための契約になります。
具体的には以下のような項目を取り決めます。
記載事項 | 概要 |
就業場所 | 派遣先企業の事業所名、所属部署、電話番号など |
組織単位 | 派遣社員が所属する部署や課などの組織名 |
業務内容 | 派遣社員が従事する具体的な業務内容 |
業務に伴う責任の程度 | 派遣社員が責任を負う範囲について。役職付の場合は、役職と権限、部下の人数など |
指揮命令者 | 派遣社員に対する指揮命令者の所属部署名・役職・氏名等 |
派遣期間 | 派遣社員が派遣される期間 |
就業日 | 月曜日から金曜日など、派遣社員の就業日 |
就業時間・休憩時間 | 就業する具体的な時間と、休憩時間の開始・終了時刻 |
安全および衛生に関する事項 | 労働安全衛生法等の法令を遵守や安全衛生教育の実施有無について |
苦情処理に関する事項 | 派遣社員から苦情の申し出があった際の派遣会社、派遣先企業それぞれの窓口、担当者の部署名・氏名・電話番号、処理方法 |
派遣労働者の雇用安定を図るための措置に関する事項 | 派遣会社の合意を得ることや解除通告までの期間など、派遣社員の契約解除を行う際のルール |
派遣元・派遣先責任者 | 派遣元・派遣先責任者の氏名 |
就業日外労働の可否 | 1カ月の休日労働日数※休日出勤が必要な場合 |
時間外労働 | 1日、1カ月、年間単位の残業時間※残業が必要な場合 |
上記は一例です。実際には労働者派遣法第26条で定められている項目のすべてを記載する必要があります。
また、個別契約は同法律により契約および保管が義務づけられています。保管期間についての定めはありませんが、派遣先管理台帳と合わせて派遣契約終了から3年間保管するのが一般的です。
業務委託契約との違い
労働者派遣契約と混同しがちな契約形態に、業務委託契約があります。
両者は、指揮命令権の有無と報酬の対象の2点が大きく異なります。
指揮命令権の有無 | 報酬の対象 | |
労働者派遣契約 | 派遣先企業が派遣社員に指揮命令を行う | 作業時間 |
業務委託契約 | なし | 成果物 |
労働者派遣契約における指揮命令権は、派遣先企業が有します。
これに対して、業務委託では、雇用契約がなく指揮命令権そのものがないため、受託先は作業時間や休憩時間、休日などについて、委託企業から指示を受けることはありません。
また報酬の対象は、労働者派遣契約では作業時間で、業務委託契約では成果物になります。
なお、業務委託契約には「請負契約」と「委任契約・準委任契約」の2種類の契約形態があり、これらの契約形態を総称して業務委託と呼びます。
人材派遣と業務委託との違いについては、以下の記事も参考にしてください。
人材派遣と業務委託の違い|特徴からメリット・デメリット、注意点まで
労働者派遣契約の契約形態について
労働者派遣契約には、派遣会社と派遣社員の雇用契約の期間の違いによって、登録型派遣(有期雇用派遣)と常用型派遣(無期雇用派遣)の2種類に分けられます。
なお、一般的に派遣と呼ばれているのは、就業期間に定めのある登録型派遣です。
登録型派遣(有期雇用派遣)
登録型派遣(有期雇用派遣)とは、派遣先企業に派遣されている期間のみ、派遣会社と雇用関係が成り立つ派遣形態です。
派遣先企業での派遣期間が終了した場合には、派遣会社との雇用関係も終了します。
詳しくは、以下の記事でも解説しています。
【企業向け】有期雇用派遣とは|無期雇用派遣との違いをわかりやすく解説
常用型派遣(無期雇用派遣)
常用型派遣(無期雇用派遣)とは、派遣会社と派遣社員が期限の定めなく雇用関係を結ぶ派遣形態です。派遣期間が終了しても、派遣会社との雇用関係は継続されます。
無期雇用派遣は、雇用の安定が確保されることから、後述する3年ルールの対象の除外対象です。
以下の記事も参考にしてください。
【企業向け】無期雇用派遣とは|活用メリットや受け入れ時の注意点について
労働者派遣契約の流れ
労働者派遣契約を締結する流れを詳しく解説します。
なお、労働者派遣契約書は印紙税法の課税対象書類ではないことから、作成において収入印紙は不要です。また、2021年より電子データでの交付も可能になっています。
作成作業の効率化や管理・保管の簡略化、コスト削減などが期待できるため、電子化での交付も検討するとよいでしょう。
1. 派遣会社と派遣先企業間で基本契約を締結する
派遣社員を受け入れる第一段階として、派遣会社と派遣先企業の間で取引関係を構築する基本契約を締結します。契約書に記載する項目に決まりはなく、派遣会社と派遣先企業の合意によって決められます。
労働者派遣契約における基本契約の締結および契約書の作成は法令で義務づけられていませんが、トラブル防止の観点から作成しておくとよいでしょう。
2. 派遣先企業が派遣会社へ事業所抵触日を通知する
登録型派遣(有期雇用派遣)では、同一事業所・同一部署での勤務は最長3年(3年ルール)と定められています。この3年を超えた最初の日が事業所抵触日です。
例えば、2024年9月1日から派遣社員を受け入れた場合は、2027年の9月1日が事業所抵触日になります。
事業所抵触日の通知は、この期間を超えないようにするための防止策です。労働者派遣を利用する際には、派遣先企業から派遣会社に対してあらかじめ事業所抵触日を通知する義務があります。
抵触日については、以下の記事もご覧ください。
3. 派遣会社と派遣先企業間で個別契約を締結する
個別契約は、派遣先企業が派遣社員を受け入れるごとに締結する契約です。労働者派遣法による労働者派遣契約とは、この個別契約のことを指します。
締結および記載する項目が法で定められているため、その内容に従って契約書を作成します。なお、個別契約を締結しない限り、人材は派遣してもらえません。
4. 派遣先企業が派遣先管理台帳を作成・保管する
派遣先企業は各派遣社員に対し、派遣社員の氏名、就業日、就業場所、就業時間、業務内容などを記載した派遣先管理台帳を作成・保管しなければいけません。保管期間は、派遣期間が終了した日から3年間です。
派遣先管理台帳の作成後は、少なくとも月に1回の頻度で派遣会社に対して、派遣社員の就業実績を通知することが義務づけられています。
派遣先管理台帳については、以下の記事で詳しく解説しています。
なお、派遣事業に関する各種様式は、厚生労働省でひな形が用意されています。「派遣事業に関する各種様式」のページもご覧ください。
労働者派遣契約の注意点
人材派遣は、一時的な人材不足の解消や人件費の削減に役立つ便利な方法です。しかし、労働者派遣契約を締結する際には、注意すべき点があることも押さえておきましょう。
労働者派遣契約における注意点を紹介します。
労働者派遣が禁止されている業務がある
労働者派遣では、以下の業務が禁止されています。
これらの業務では職務内容が専門的である、指揮命令系統が曖昧になることで危険にさらされるリスクがある、雇用の安定といった観点から、労働者派遣が禁止されています。
詳しくは、以下の記事で解説しています。
同一事業所・部署での勤務は最長3年(3年ルール)
登録型派遣(有期雇用派遣)では、同一事業所・部署での勤務は最長3年に定められています。これは3年ルールと呼ばれており、事業所単位と個人単位の2種類があります。
事業所単位の期間制限
事業所単位の期間制限とは、同一の事業所で派遣社員を受け入れられるのは原則3年までとするルールです。こちらは、過半数労働組合等の意見聴取を行うことで延長が可能です。
個人単位の期間制限
個人単位の期間制限は、同じ派遣社員を同じ組織単位で受け入れられるのが3年までとなるルールです。組織単位は、いわゆる「課」や「グループ」が想定されています。
そのため、もし同じ派遣社員に3年以上勤務してもらいたい場合は、配属する部署や課を変更するといった方法があります。
派遣社員という形態にこだわりがない場合は、派遣先企業で直接雇用する方法もおすすめです。
なお、派遣期間のうち、契約書にない業務や部署への異動はできません。部署異動や業務内容を変更する可能性がある場合は、事前に派遣会社に相談しておきましょう。
3年ルールについては、以下の記事で詳細が確認できます。
派遣法の3年ルールとは?企業がとるべき対策と例外ケースについて
二重派遣の禁止
二重派遣とは、派遣先企業が、派遣社員をさらに別の企業に再派遣することをいいます。
派遣社員に対する責任の所在が不明確になるうえ、関与する企業が増えて中間マージンが増加し、派遣社員の労働条件悪化が懸念されるため、禁止されています。
二重派遣は違法行為であるため、該当すれば罰則が科されます。企業イメージの悪化にもつながるため、以下の記事を参考に防止策を把握しておきましょう。
日雇い派遣の禁止
労働者派遣では、一部の例外業務を除いて、日々または30日以内の契約期間で派遣を行う日雇い派遣を禁止しています。
ただし、60歳以上の者や雇用保険の適用を受けていない学生など、一部の方および業務においては、例外的に日雇い派遣を認めている場合もあります。
詳しくは以下の記事も参考にしてください。
日雇い派遣とは?禁止理由や単発バイトとの違い、例外ケースを解説
急な契約解除は原則できない
人材派遣では、派遣社員の雇用の安定を図るために、派遣先企業の都合による急な契約解除は原則、認められていません。
ただし、やむを得ない事情により契約解除を申し入れる場合は、相当期間の猶予をもって派遣会社に通知し、派遣先企業の関連会社・子会社などでの仕事をあっせんするといった新たな就労機会の確保を行う必要があります。
派遣社員の事前面接はできない
人材派遣では、労働者派遣法により派遣社員の選別・特定は禁止されています(派遣特定行為)。その理由は、派遣先企業と派遣社員との間に雇用関係が発生しないためです。
派遣先企業による派遣社員の指名や事前面接はできませんが、派遣社員が希望した場合は、事業所訪問(職場見学)の実施が可能です。
詳しくは、以下の記事で解説しています。
労働者派遣契約に関与する法律
労働者派遣契約には、労働契約法や労働者派遣法など、似たような名称の法律が関与しています。それぞれの法律で重要なポイントを解説しますので、正しい理解に役立ててください。
労働契約法
労働契約法とは、労働者と雇用主間の労働契約に関する民事的なルールを定めた法律です。労働者の保護を図り、労働関係を安定させることを目的としています。
人材派遣において、労働契約法で重要なポイントは以下の3つです。
- 無期労働契約への転換(無期転換ルール)
- 「雇い止め法理」の法定化
- 不合理な労働条件の禁止
無期転換ルールとは、有期労働契約が繰り返し更新されて通算5年を超えたとき、労働者の申込みによって無期労働契約に転換できるルールのことです。詳しくは、以下もご覧ください。
派遣の無期転換ルール(5年ルール)とは?適用条件・特例を解説
「雇い止め法理」の法定化は、一定の場合において、使用者による雇い止めが認められないとするルールです。有期契約労働者と無期契約労働者との間で、期間の定めを理由とした不合理な労働条件の相違を設けるのも禁止されています。
労働者派遣法(派遣法)
労働者派遣法は、労働者派遣事業を適正・適切に行い、労働者を保護することを目的にした法律です。労働者派遣法の制定によって、派遣社員は中間搾取などを心配することなく就業できるようになりました。
労働者派遣法でいう労働者派遣契約は、「契約の当事者の一方が、相手方に対し労働者派遣することを約する契約」とされています。この法律では、以下のような内容が定められています。
- 派遣期間の制限(3年ルール)
- 同一労働同一賃金
- 労働契約申込みみなし制度など
同一労働同一賃金とは、派遣社員と派遣先で同種の業務に従事する労働者の待遇の均衡を図るための取り組みです。
派遣会社と派遣先企業にそれぞれ責務が課されており、派遣先企業は福利厚生施設の利用や賃金水準の情報提供などの配慮義務を負います。
また、労働契約申込みみなし制度は、派遣先企業が違法派遣を受け入れた場合に、その時点で派遣先企業が派遣社員に対して、派遣会社と結んでいた労働条件と同一の労働条件で労働契約の申込みをしたものとみなされる制度です。
禁止業務への従事や派遣の期間制限への違反などが生じた場合に、適用されます。
労働者派遣法については、以下の記事で詳しく解説しています。
労働者派遣契約に関してよくある質問
労働者派遣契約においては、さまざまな疑問が聞かれます。
この章では、書類の作成が義務になるのか、労働契約と派遣契約の違いについて解説します。
労働者派遣の契約書は義務ですか?
労働者派遣契約は、派遣先企業が派遣社員を受け入れる際に必要な契約で、大きく分けて基本契約と個別契約があります。
このうち個別契約は、労働者派遣法により契約および保管が義務づけられています。基本契約は締結および保管義務はありませんが、トラブル防止の観点で行う流れが多いでしょう。
労働契約と派遣契約の違いは?
労働契約と派遣契約の大きな違いは、雇用主です。
労働契約は、労働者が就業先企業に労務を提供し、賃金を受け取ることを約束した契約です。
一方、派遣契約は派遣会社に雇用されている派遣社員を、派遣先企業に派遣する契約であり、雇用主は派遣会社になります。
まとめ
労働者派遣契約は、派遣会社と派遣社員の両方とのトラブルを避けるために必要なものです。
基本契約に関しては法令で定められていませんが、派遣会社とのトラブルを防ぐためにもしっかりと内容を定め、締結・保管しておきましょう。
労働者派遣契約の注意事項に違反してしまうと、ペナルティを科されるリスクがあります。どのようなことが禁止されているのかを把握したうえで、適切に人材派遣を活用できるよう努めることが重要です。
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- 繁忙期の人手不足を解消したい
- ハイスキル人材を、必要な稼働量だけ確保したい
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監修者
緒方瑛利(ロームテック代表)
プロフィール
1989年北海道むかわ町生まれ。民間企業に入社後、総務・IR広報業務に従事したのち経済団体に転職。融資や創業相談、労働保険事務組合を担当し2019年に社会保険労務士試験に合格。2020年にITに強い社労士事務所としてロームテックを開業。社労士向けのエクセルセミナーや労働保険社会保険に関する情報を発信している。